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ヨタばなし★スターメンバー バックナンバー:vol.33

●いい仕事をした仕事人


ノーベル賞が話題になっている。
僕はTVニュースを見ながら、【大学の先生】ではない、【サラリーマン】が受賞したのをとても嬉しく感じている。ノーベル賞が少し身近になったような・・・いや、本当はちっとも身近になってはいないのだけれど、とにかく、ギラギラとノーベル賞を狙っていたと思われる人ばかりが受賞するより、なんとなく気持ちいいと思って見ている。

島津製作所といえば、いろいろと難しそうな分析機器なんかを作っている会社で、理科屋あがりの僕にとってはおなじみの、がんばって研究している会社である。
そこの、田中耕一さんという、そんなにえらくないおじさんが受賞した。【そんなにえらくない】というのは、念のため言っておくと、悪口ではなくて褒め言葉だから誤解しないように。田中さんは、肩書きでいうと、主任さんなんだそうだ。島津製作所では主任さんよりも課長さんのほうがえらいらしいので、つまりあんまりえらくない人ということになる。田中さんは、研究に没頭したいからと言って、出世のことは二の次だと思っているタイプだという。これはすばらしい!今までも楽しみながら研究してきたし、自分は管理職には向いてないという。当然、賞金の使い道には考えが及んでいない。これはなおすばらしい!

僕は、純朴で、まじめで、その仕事を愛している技術者や職人や研究者というのはいいなと思う。

田中さんが研究したのは、『生体高分子の同定及び構造解析のための手法の開発』である。
まるで意味がわからない。
レーザー光線を当ててたんぱく質をイオン化してぶっ飛ばして飛行時間を計るとたんぱく質の質量が計算できる、といってもなんだかさらにわからない。たんぱく質などの質量を正確に計測する新しい方法を開発した、ということになるのだが、それが何の役に立つのか?平たく言ってしまえば、あの有名なヒトゲノム計画の続きをやるのに欠かせないのである。

ヒトゲノム計画というのは、人の細胞の中にある遺伝子(ゲノム)が持っている情報をもれなく全部明らかにしようというプロジェクトで、この計画そのものはすでに終了している。
そして遺伝子が発信する、どんなたんぱく質を作ろうかという指令どおりにちゃんとしたたんぱく質が作られて、うまく働いていると、体の機能あれこれもうまいこといく、という仕掛けで僕たちは毎日生きている。だから、遺伝子を調べて終わっただけでは何も進まないのだ。次はたんぱく質のことを調べて医療の分野で応用しないといけない。ここで田中さんの研究成果が大きく役立つことになる。

機械にたとえれば、遺伝子というのは設計図、設計図にそって作られるたんぱく質は部品である。ネジでもなんでも、必要な部品の形や大きさは、間違いなく把握しておかないと、その先の作業が大変なことになってしまう。田中さんは、必要な部品の形や大きさを短い時間で正確に調べる方法を考えた。

ところで、世界で最も権威ある学術文化賞であるノーベル賞のノーベルというのは、ダイナマイトを発明した人の名前である。アルフレッド・ノーベルさんは、人類に対してめざましい功績のあった人や組織にわしの財産をわけてやってくれー、とう遺言を書いて亡くなり、ノーベル財団が設立された。実際のノーベル賞では正確にいうと、財産(の一部)の利子運用を賞として、年1回与えている。1901年に始まり、ちょうど100年の歴史を持つ。物理学賞、化学賞、生理学・医学賞、文学賞、平和賞の5種類と、途中から追加されたノーベル記念経済学賞というのがある。ノーベル記念経済学賞はノーベルさんの遺言には含まれていなかったので、本当はノーベル賞ではないが、同等に取り扱われている、すごい賞らしい。

今回田中さんが受賞した化学賞は、化学の分野内で最も重要な発見あるいは改良を成し遂げた人に与えられるもので、かの有名なキュリー夫人が受賞したのはこの賞だ。
日本人だと1981年に福井謙一さんが、2000年に白川英樹さんが、2001年は野依良治さんが受賞している。

このいかにもかっこいいノーベル賞の授賞式は、毎年、ノーベルさんの命日、12月10日に執り行なわれる。平和賞以外の4つとノーベル記念経済学賞の授賞式はストックホルム(スウェーデン)で行われ、平和賞のほうはオスロ(ノルウェー)で行なわれる。金メダルと賞状と賞金を、スウェーデンの王様からもらうらしいからやっぱりかっこいい。授賞者が複数の場合は、賞金は等分配か、3人だと 1/2, 1/4, 1/4 という分け方もあるらしい。

受賞の連絡をもらうのは、どんな気持ちだろう。田中さんは呆気にとられて、驚く準備もまだできていないように見えた。そこがなんともすばらしい!俺様もいつかノーベル賞を・・・なんて毎日ギラギラとノーベル賞のことばかり考えていたらあーはいかない。

田中さんも言っていたが、電話で受賞を知らされるのが普通らしい。さりげなくていいな、と思う。
僕たちの方は気楽なもので、なるほどねーなんて、梨を食べながら落ちついてニュースを見ているが、当の本人は大変そうである。田中さんノーベル化学賞受賞!のニュースが日本中を駆け巡った夜、いったい彼は何時に寝たんだろうか・・・

僕は、日本は研究をあんまり評価してくれない国だと思っている。今回の田中さんの研究だって、アメリカ人の研究者が「こりゃいいね」と気づいてくれてから世界的に知られるようになった。【いい仕事】をしている仕事人はそれなりに評価されなくてはいけない。ノーベル賞をもらったからすごい、のではなくて、すごいから結果としてノーベル賞をもらった、のだから。

サラリーマン経験者の僕としては、冷静に、田中さんの今後の処遇も気になる。役員待遇にして役員並みの年収を支払い、特別褒賞金1000万円を支給したんだとか。田中さんがノーベル化学賞受賞の対象となった研究を行ったのはすでに過去であるが、その時点で研究成果に対する褒賞金などはほとんどなかったのだそうだ。つまり、【ノーベル賞をもらったからすごい】というおかしなことになっている。
ま、時が流れ、時代が変わり、科学技術が進歩していく中で、何が重要で何が役に立つのか、人々には何が必要なのか、ということは移り変わっていく。しかたないか、とも思うし、つまんないな、とも思う。

個人が個人を評価しようというのだから、サラリーマン社会はそもそも嘘くさい。

もちろんお金や肩書きもあってあたりまえだが、田中さんの意向を尊重して、もっと自由な研究ができるように環境を整えたり支援したり、そういう応え方しないといけないと思う。島津製作所は今回、田中さんのために研究所をひとつ作ることにした。妥当というかなんというか、会社の反応としてはごく自然だな、と思う。管理職に向かないと自ら言う研究好きの田中さんが、【えらいひと】にならずにすむといいけ
ど。

田中さんは今の会社に入社する前、ソニーに行きたかったのだという。田中さんという人を直接存じ上げないので勝手に決めてしまうが、田中さんらしいなーと思った。

個人個人が自由闊達に夢を実現しよう。

僕は久しぶりに、ソニーの設立趣意書を思い出した。
楽しんで仕事をするのはいいもんだと思った。

2002/10/20

日刊ヨタばなし★スターメンバー




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