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●あくまでも仕事のお礼
【仕事のお礼とごまかしつつひょっとしたら恋】
10月19日の夕方6時ごろ、地下鉄丸の内線の車内で僕が集中力をふりしぼって暗記した、サラリーマン風20代前半の男性が自分の手帳に書いていた文章はだいたい以下のとおりです。なお、本文に登場する人物名は、そのまんま。全国のナオミさんと、全国のナオミさんに告白しようとしている人、ごめんなさい。
ナオミさんに初めて書く手紙です。今回の仕事の件でどうしてもお礼が言いたくて。言葉じゃなく、行動じゃなく、存在そのものが僕の支えになってくれる。僕が今まで生きてきた中で、そんな人に出会えたことを僕はどうしても伝えたい。ナオミさんの前では僕は本当に心を裸にできる、空間であり、時間であり、その存在自体が僕にとってかけがえのない・・・
ここまで書いてペンが止まってしまいました。どうつなげようか、迷っているんでしょう。
【たぶん恋】
手帳に書いていることから、これは下書きと思われます。そしてこれは彼が書いているとおり、仕事のお礼のつもりであると思われます。さらに文章がかなりおかしなことになっているので、今後数回にわたる書き直しが必要になってくるものと思われます。この文章には様々な謎が含まれており、
1.彼の20数年の人生において彼を支えてくれる人間はいなかったのか?
2.はたしてナオミさんは実在の人物であるのか、それとも時間や空間なのか?
3.そして一番大事な仕事のお礼はいったいどこへ行ったのか?
などがあげられます。
この、最重要と考えられる仕事のお礼は、普通ならまず最初に書かれるべき事柄であるにもかかわらず、彼の文章の書き出しは「今回の仕事の件でどうしてもお礼が言いたくて」のみであり、「ありがとう」とは続かないのです。つまり、彼が本当に書きたいのは仕事のお礼ではないということになります。【お礼が言いたくて】書いていることにするけれども、彼が書きたいことは【言葉じゃなく、行動じゃなく、空間であり、時間である、ナオミさんは僕にとってかけがえのない存在であるということを伝えたい】ということです。
たしかに、言葉や行動に比べて、時間や空間といったものはかけがいえのない存在ではありますが、なぜそれをナオミさんという特定の個人に伝えなければならないのか。あるいは【ナオミさん】が時間や空間のことであるならば、これはいったい誰に宛てた文章なのか。彼は、伝えたいことがはっきりしているにもかかわらず、わざとそれを直接的に書かずにあいまいに表現しようとしていると考えられるのです。彼が本当に伝えたいのは「ナオミさんは僕にとってかけがえのない存在です」ということだけです。
女の子にもてそうなおしゃれビジネスマン風で、じつはフレッシュマンと思われるこの青年ははたして自分の思いをナオミさんに伝えることができるのでしょうか。
【もうすんごい恋】
なんだよおまえ、恋してんなー。仕事のお礼はどーしたんだよー。
おまえ何言ってっかわかんねーよー。すげー詩的だな、おまえ。
なぁ、早く仕事のお礼を書けよー。ってゆーかさー、どーせ仕事のお礼の手紙には見えねーよー。好きって書いちゃえよー。大好きなナオミさんに頭オカシーと思われるぞー、それ。
ナオミさんに初めて書く手紙です。
今回の仕事の件でどうしてもお礼が言いたくて。
好きです。
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